体験記 - 森田 海
工学部社会開発システム工学科 4年
- 氏名
- 森田 海
- 配属先研究室
- Rice University OpenStax
- 研究テーマ
- Machine Learning Algorithms for Classifying Student Short-Answer Responses using the OpenStax Pilot Data
- 留学期間
- 平成28年8月10日~11月30日
研究インターン生として私は、従来派遣されるライス大学の「研究室」とは少し異なる環境で研究活動をさせていただきました。派遣先は、ライス大学発の教育テクノロジー系NPOの「OpenStax」です。OpenStaxはライス大学の研究成果を利用し、「オンライン教科書」を開発・提供する機関です。このオンライン教科書は、ユーザーが教科書上の練習問題を解く度にその回答を分析し、ユーザーにフィードバック(ユーザーの学習単元理解度や次に取り組むべき課題など)を与えます。OpenStaxが、2012年に提供開始した「オンライン教科書」は、2016年までにアメリカ国内の大学をはじめ、2668の教育機関、合計160万人以上に無償で提供されています。OpenStaxには、教科書作成チーム、広報チーム、研究チームなど幾つかのチームがあり、私は研究チームに配属となりました。
OpenStaxのインターンを希望した理由は、私の留学目的と強く関係しています。私は将来、教育とテクノロジーについて海外大学院で学ぶことを考えていました。そのため、今回の留学では、以下の3つの目的を持ってアメリカに渡りました。
- 英語で最先端の研究に触れて海外大学院進学の糧にすること
- ICTを使った一人一人に合った教育(特に個別教育)の可能性を探ること
- 教育へ活かすことのできるICT技術を学ぶこと
留学に際してネックだったことは、留学時期と留学資金でした。留学時期が学部4年次だったため、従来の例であれば、卒業研究に影響を与えないように、8、9月の2ヶ月間のみの留学となるのですが、2ヶ月では自身の目的を果たすには非常に短いと考えていました。そこで、卒業研究をライス大学留学中に同時に行うことができるように卒業研究テーマを設定し、留学期間を4ヶ月にすることができました。
さて、物価の高いヒューストンで留学するためには、VISA代、渡航費、家賃、生活費など、とにかくお金がかかります。特にライス大学は都会にあり家賃が高かったため、民泊サービス(airbnb)を利用することに決め、同時期に日本からライスに留学する他大学の学生らとシェアルームをすることにしました。そのため、家賃を月8万円ほどに抑えることができました。しかし、それでも自費で賄うことが難しかったため、「トビタテ!留学JAPAN」プログラムに応募し、奨学生として採用されることができ、経済的な心配は解消されました。
実際に留学が始まると、未知の経験の連続でした。OpenStaxは教育関連の個人データなどを扱っている研究機関のため、まずは情報セキュリティの規範に関するトレーニングを受けました。トレーニングとはいえ、オンライン上で講義を受けて、資料を読み、テストを受けて正答率が基準を満たすとトレーニングを修了できるものです。多国籍の人が働きルールに厳しいアメリカらしいなと思いつつ、3日間かけてなんとか無事クリアし、研究のスタートラインに立つことができました。
さて、私は留学期間中、1つの特定のテーマについて研究することはなく、OpenStax研究チームのプロジェクトに合わせて、その都度必要なタスクを行ったり、鳥取大学の卒業研究をライス大学研究者の協力のもと行ったりと様々な経験をしました。具体的なタスクを挙げると、教育データのための解析モデルの修正やモデル精度検証プログラムの構築、膨大なチャットデータから有益情報を見つけるための自然言語処理などです。前半の2ヶ月はOpenStaxのプロジェクト中心でしたが、後半2ヶ月は卒業研究を中心に行い、卒業研究中間発表もスカイプを通して発表しました。
次に1日の研究の流れを紹介します。研究チームは、朝9時にスクラムと呼ばれるミーティングを行い、前日の成果報告と各プロジェクトの進捗確認をします。基本的には5分ほどですが、大統領選挙や州内の重大事件などの世間話に花が咲くこともあり、日によっては40分も雑談したこともありました。ちなみに、たった5分の時でも用件だけを伝えるといった形式的な会議ではなく、ユーモラスなそれぞれのメンバーが1分間に1つ以上のジョークを挟んでくるような、笑いに包まれた朝の一時です。スクラムが終わると、私の指導教官のドリューがいるときは、ドリューを呼び止め、前日解決できなかった問題に関する質問等を徹底的に行います。朝の機会を逃すとその日は直接話ができず、忙しいドリューと話すにはチャットやスカイプに頼らなければなりません。しかし、それらでは細かな意図が伝わらないことも多いため、紙面上やホワイトボード上に式やグラフを描きながら伝えることができる対面で話すことが、私には最も有効な意思疎通の手段でした。さて、それらが終わればオフィスのフリースペースにて、その日のタスクに黙々と向かう時間です。そして、午後4時頃にはオフィスを離れ、そこから緑あふれる住宅街を30分ほど歩いてライス大学キャンパスに行き、図書館やジムに行くのが私の日課でした。
留学を通し、ライス大学の研究者の指導のもとで自然言語処理技術などを用いた先進的な研究や、ライス大学の研究成果を卒業研究の分析に活かすなど、日本では得られない多くの経験を得ることができました。しかし、留学中には自身の知識・経験不足によりチャンスを逃すことがあったことは大きな教訓となりました。研究中のある日、ライス大学だけでなくスタンフォードやUCバークレーの研究者らで計画している大規模な研究プロジェクト会議に参加させてもらいました。そこで発言の機会を与えられたのですが、専門的な話についていけず、何も発言することができず、非常に悔しい思いをしました。この経験を糧に、将来はOpenStaxのような海外の教育機関で活躍するため、今後も大学院で知識と技術の研鑽に励みます。