鳥取大学工学部 鳥取大学大学院工学研究科 Faculty of Engineering, Tottori University / Graduate School of Engineering, Tottori University

機械宇宙工学専攻 教授 福井茂寿

機械物理系学科
機械宇宙工学専攻 教授

SHIGEHISA FUKUI

福井 茂寿

1952年、大阪生まれ。

工学博士。京都大学大学院・工学研究科修士課程修了(航空工学専攻)。その後、日本電信電話公社(現:NTT)研究所に入所。18年間の勤務の間コンピュータ用磁気ディスク装置機構の研究実用化および分子気体潤滑、計算トライボロジーの基礎研究に従事した。1995年鳥取大学工学部応用数理工学科の教授に着任。これまで、日本機械学会賞論文賞(5回)、同船井賞、トライボロジー学会論文賞、米国機械学会シーゲート賞などを受賞。

高校生のとき、明治改元100周年のドキュメントに触れて当時の先進国の技術者が日本の近代化に貢献したことを知り、今度は日本から世界に技術を伝えようと思ったのが、今の研究につながっている。

トライボロジーの研究で新たなマイクロメカニズムの可能性を開く。

IT記憶装置のギガとナノの世界。ミクロの未知に挑戦する。

相対運動をしているある物体と別の物体の“すきま”がきわめて狭い極微小空間では、いったいどのような現象が起きているのだろう。福井教授の研究は、その空間と物体の界面での物理・化学現象を解明すること(ナノトライボロジー:原子・分子レベルの総合潤滑技術、摩擦学)だ。接触しているようで接触していないほどの超微小な空間——といっても、なかなかピンとこない。とはいえ、実はそのような空間で劇的なメカニズムが働いている装置が私たちの身近な生活にある。パソコンなどコンピュータ用情報機器の心臓部ともいえる磁気記憶装置(ハードディスク:HDD)がその一つ。

コンピュータ用ハードディスク装置は、驚くほど繊細な構造で成り立っている。高速で回転するディスクの表面は磁気記録層の上に固体保護膜、さらに液体潤滑膜がある。磁気を読み取る浮動ヘッドの表面にも同様の膜が施されているのだが、このディスク表面とヘッド表面には極小のすきまがあり空気が流れる。そのすきまというのがとてつもなく小さい。現在では10ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリ)という極限に近いほど微小化され、もっとすきまが小さいほど記録密度が向上するという。

この極小のすきまは「アメーバの1匹も入れないくらいの狭さ。もし磁気ヘッドをジャンボジェット機ほどの大きさだとすると、地上(ディスク)から0.2ミリ程度で超低空飛行しているようなもの」と教授は例える。極小の宇宙「ナノ」の領域で、さらに微小の空間に空気が流れることを追究していくと、その先は「気体や液体の分子レベルの性質まで考えなくてはならない」。

IT記憶装置やバイオの「ミクロの決死圏」はキミの好奇心を待っている。

大学院では工学研究科で航空工学を専攻し、流体力学を学んだ。妙なことに教授は「気体を宇宙空間と同様に分子の集まりとして確率統計的に扱う理論、分子気体力学がHDDに反映されている」という。定律的な条件のもとでは無限に広い宇宙空間での力学が、無限の極小宇宙の力学と結びついているというのだ。「気体や液体の動きと固体表面との相互作用が流体に関連してくる。今後は、これらの関係が曖昧模糊とした領域に入っていくのではないか」と予測し、物質間の相対運動がギリギリの世界でせめぎ合うなかに新しい理論式を探ろうとしている。

ギネスブックに認定された世界最小のHDDは、500円玉サイズ(ディスク径0.85インチ)にまで小型化されており今後は1000Gbit/in2(ギガビット/平方インチ)の超高密度な記録が目標とされる。これを実現するためには、磁気を読み取るヘッドの一部(記録素子)を記録ディスクにほぼ接触させる方式が研究されている。となると、これまでの研究に加えて液体潤滑膜(剤)の分子間力学やヘッドの動力学のさらなる特性を見極めていく必要があり、熱い闘いが継続中だ。

こうした研究はバイオ分野や原子1個単位での「原子メモリー」の開発、また医療分野ではヒトの免疫作用を補足する微細な「免疫ナノマシン」に応用できる基礎技術に発展する可能性を秘めている。「身近な物事に、ものすごい技術があるという醍醐味を学生たちに味わってもらい社会に出てほしい。きっと、それは未来に生かされるはず」と信じている。

※平成20年度鳥取大学案内に『スーパーティーチャー』として掲載