鳥取大学工学部 鳥取大学大学院工学研究科 Faculty of Engineering, Tottori University / Graduate School of Engineering, Tottori University

化学・生物応用工学専攻 教授 伊藤敏幸

化学バイオ系学科
化学・生物応用工学専攻 教授
工学部附属グリーン・サスティナブル・ケミストリー(GSC)研究センター長

TOSHIYUKI ITOH

伊藤 敏幸

1954年、三重県生まれ。

理学博士。76年、東京教育大学卒業後、三重県立高校教諭(〜87年)。東京大学で博士号取得後、米コロラド州立大学博士研究員、岡山大学教育学部助教授を経て01年、鳥取大学に。専門は生体触媒による有機合成だが、とくに10数年前から第3の液体と言われるイオン液体を用いる合成反応を展開してきた。09年にはGSC賞、10年には有機合成化学協会賞を受賞。

基礎研究と実証に基づく教育方針は高校教諭時代から変わらない。自身の履歴を「ギクシャク」と表現する。その見方は新しいものを生む「化学」へのオリジナルな見方に通じている。

人や環境にやさしい化学の事始め。イオン液体が、ものづくりの未来を切り拓く。

グリーン・ケミストリーを地で行く研究から。

医薬品や化学薬品、液晶素材などのさまざまな機能材料が人工的な有機合成でつくられている。有機合成そのものは自然界でも人知れず長い歴史をもっているが、伊藤敏幸教授の研究室が取り組んでいるのは生体触媒を活用した新しい合成法の開発。そのなかでも酵素の反応をイオン液体溶媒によって大きく飛躍させた実績は、国内外で注目されている。

米国をはじめヨーロッパで提唱され、現在は我が国でも注目されている「グリーン・ケミストリー(生命や自然環境に配慮した化学)」という考え方が、研究を突き動かしたのは事実だ。

教授には「今まで、化学でいろいろなものをつくってきましたが、その過程で出る廃棄物などによって公害も発生しました。この反省から化学反応も、なるべく触媒を使って環境に悪影響を与えない効率的なものにしよう」という思いがある。そこで注目したのが酵素反応とイオン液体溶媒だった。

「酵素反応は、水を溶媒に行うのが一般的と考えられてきました。ところが反応後に生成物を有機溶媒で抽出する必要がある。抽出後の水溶液を廃水すると害になることもある。化学反応の溶媒に水がいつも環境にやさしいとは限らない」と教授はいう。

無色透明の特殊な液体が、ここにある。融点がマイナス61℃、沸点は300℃以上という。冷やしても冷やしても凍らないし、熱してもバーナーで直接加熱しても、気化せず燃えない不思議な液体。室温で液体の塩という教授たちが開発したイオン液体溶媒だった。

化学は、常識を超える世界への入り口だ。

新しい溶媒は、予期しない分子反応と性質をつむぎだす。「高濃度の塩の水溶液中ではタンパク質(酵素など)は活性を失うというのがこれまでの常識でした。でも私が思ったのは、水溶液ではなく塩そのものの中でタンパク質は、どのように働くのかということだったんです」。

このような常識を疑った発想から、塩を溶媒とする生体触媒による不斉反応を世界で最初に実現した。その成果で今年、GSC(グリーン・サステイナブル・ケミストリー)賞を受賞している。

新しい化学反応溶媒、電池の溶媒、酵素、活性化剤、新しい生理活性物質など、医療や産業技術への応用、果ては宇宙船用の潤滑油など「イオン液体の用途は、ものすごく広い。その可能性を徹底的に深めたい」。

そう話す教授だが、自らは大学卒業後、いったんは念願だった高校教師になった。しかし「自分の仕事はこれでいいのかなと自問」の日々を送ってきた。やがて定時制高校で教鞭をとりながら昼間は大学の研究室に通った。紆余曲折を経て鳥取大学へ。

化学の魅力は「まったく新しいものづくりにかかわること」。  「いい仕事(学生生活や研究活動)ができれば、どこからでも世界中に認められる扉が開かれる。この大学で良質なサクセス体験を1つでも経験してほしいと思っています」。

※平成22年度鳥取大学案内に『スーパーティーチャー』として掲載