鳥取大学工学部 鳥取大学大学院工学研究科/工学専攻 Faculty and Graduate School / Department of Engineering Tottori University

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化学バイオ系学科 教授 坂口裕樹

坂口 裕樹

化学バイオ系学科 教授

HIROKI SAKAGUCHI

坂口 裕樹

1960年、富山県生まれ。

工学博士。少年時代を新潟で過ごす。静岡大学工学部合成化学科を卒業ののち、大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻修士・博士課程を修了。大阪大学講師を経て96年、鳥取大学に赴任。この間、アメリカ・アイオワ州立大学エイムズ研究所研究員。

敬愛する新潟大学名誉教授(医学博士)の俳句「学問の静かに雪の降るは好き」に共感し、冬には雪の降る鳥取に親しみを覚えている。担当学科にはJAXA(宇宙航空開発研究機構)の小惑星探査機「はやぶさ」(小惑星「イトカワ」の探査機)の電池開発にたずさわった卒業生を得る。06年より、科学ジャーナル「Journal of Alloys and Compounds」のエディターも務める。

電池を生かした、未来地球の想像図。

次世代自動車を動かす電源づくり。

世界規模で排出されるCO2の総量のうち、現在、約20%が自動車の排気ガスといわれる。地球温暖化の抑止や低炭素社会を目指すうえで、エネルギーを化石燃料にばかり依存しないで済む自動車の開発は大きな希望となっている。HEV(ハイブリッド自動車)やEV(電気自動車)などのエコカーが登場しているものの、特にその電源となる電池の高性能化は課題であり、次世代自動車のみならず、スマートグリッド電力供給システムなど、これから私たちの生活の隅々にも直結するテーマとしてホットな注目が集まっている。

「電気(電力)の最大の難点は、長い期間にわたって蓄えたり、それを安定的に放出する幅が限られているということなんです」と坂口裕樹教授は言う。太陽光や風力などを利用した再生可能なエネルギーを、どのように有効利用できるかの鍵もそこにかかっている。新素材、とくに金属などの無機材料化学を専門としてきた教授の研究は、この難点に挑み、化学電池、とくに二次電池(充放電できる蓄電池のこと)の部材開発に向けられてきた。とりわけ今後、車載用として主流になると考えられるリチウムイオン二次電池の負極にスポットを当て、文部科学省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などの助成を得て電池のエネルギー密度の高度化と充放電サイクル(耐用性、寿命)の向上につながる材料の創製に大きな成果を上げている。

「二次電池の負極には主に炭素が使われてきました。でも、私たちはリチウムイオンの貯蔵容量が大きいケイ素(Si)を基に負極合成の研究を進めました」。しかし、Siはリチウムの取り込みと離脱にともなって膨張−収縮し、やがて活物質層が崩壊していく。そこで教授たちはSiと別の合金をコンポジット化(複合化)し、さらにそれをGD法(ガスデポジション法=高圧ガスで発した高速度の物質を他の物質に衝突させて圧着させる一つの方法)を用いて厚膜とすることで活物質層の崩壊を抑え、電極としての性能を著しく高めることに成功した。

身近な素材がもつ個性を最大に引き出そう。

「電池開発は、いまやブームのようにとらえられがちですが、私は今までも、これからもずっと必要なものとして見ています」。

希少金属である「レアメタル」の資源に関心が高まっているが、教授がむしろ向き合っているのは「ベースメタル」だった。つまり、身近な元素、素材のなかに新しい価値を見出そうというもの。素材のマイナス面も優位性も徹底的に追究し、柔軟な発想で有用な材料をつくっていこうと考える。高価な希少金属に頼らずとも、また製法を工夫することによって低コストでの高機能材料が生まれる可能性を、二次電池開発の分野で実証しようとする。しかも、電池研究には自身の専門外分野からも着想を得ており、視野の広さを物語っている。

「若いうちには“こんなことを勉強して何になる”と思うことがあるかもしれない。私もそうだった。けれど、そのときには解らなくても、いろいろな経験をして自分の能力を働かせることが大事。将来、意図しなかった仕事に就いたとしても、その経験はいずれ役立つはずです」と学生たちの成長に期待を寄せている。

※平成23年度鳥取大学案内に『スーパーティーチャー』として掲載