鳥取大学工学部 鳥取大学大学院工学研究科 Faculty of Engineering, Tottori University / Graduate School of Engineering, Tottori University

化学・生物応用工学専攻 教授 簗瀬英司

化学バイオ系学科
化学・生物応用工学専攻 教授

HIDESHI YANASE

簗瀬 英司

1952年、長崎県生まれ。

農学博士。大阪府立大学大学院農学研究科(農芸化学専攻)博士課程、同大学農学部助手を経て90年、鳥取大学工学部助教授に。93~96年、米国ロックフェラー大学准教授を併任。生体触媒としての酵素研究が評価されて05年「酵素応用シンポジウム・研究奨励賞」を受賞。

生きている微生物が様々な物質から新しいものをつくり出す作用に、限りない未来を切り開く手がかりを探究している。

バイオテクノロジーが描く、未来と過去をひもとくエネルギー源に向かう。

野菜と生体触媒の不可思議な力に驚き。

映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス監督作品)。直訳すれば「未来へ還る」というタイトルそのものも面白いが、この映画で簗瀬教授が興味をもったのはタイムマシンを動かすエネルギー源に野菜屑を使うシーンだ。「あの発想って大事ですね。理想じゃないですか」(笑)と冗談めかして言う。でも、ふと考えれば、今や自動車の燃料にトウモロコシなどでつくったエタノールを使う時代。現実に植物が乗りものを動かすエネルギー源になっている。なぜ、そのようなことが可能になったのだろう。欠かせないのが生体工学=バイオテクノロジーだ。

専門としているのはバイテクのなかでも生物触媒工学である。簡単にいえば、物質Aを全く別の物質Bに化学変化させることができる、細胞内のある物質(生体触媒)の働きを研究している。「生体触媒の代表例が酵素。タンパク質の一つですが、それが細胞のなかにたくさんある。いまでは細胞そのものを触媒として考える見方も出てきている」という。人体内では、摂取した食べ物を酵素が分解して必要なエネルギーに変換している。医薬品や調味料、発酵食品など酵素の働きによって私たちが恩恵を受けている製品も数知れない。ことに教授はバイオエタノールの研究にあたってきた。きっかけは第2次石油ショック。石油資源のほとんどを海外に依存している日本の現実がある。

木質をアルコールに換えるアクロバット研究。

「はじめは石油に代わる燃料をつくれないか、と」。そのためのバイテクを助手時代からずっとやってきた。生体触媒を考える上で酵母やカビが主役のなか、教授が着目したのは、なんとバクテリア。それを遺伝子組換え技術によって能力を高め、さまざまな原料からエタノール(アルコール)を迅速かつ効率的に生成できないかと試みた。結果、ゲノムを解析し組換えて、酵母より5倍ほど速い生産能力をもつ発酵菌の育成に成功する。

「おそらく、いろいろな糖類から最短でアルコールをつくる世界でもトップレベルの発酵菌」と教授。しかし問題がある。本来、人や動物の食べ物であるべきものを最初から燃料にするのは良いことなのだろうか。そこで目指したのが建築廃材などを対象とした木材を分解する発酵菌の開発だ。「木材は糖の塊みたいなもの。これをアルコールにできれば応用の裾野が大きく広がる」と考えた。なにも燃料にするだけではない。バイオ・プラスチックをつくったり、新薬の開発、廃タイヤの処理や毒素の分解など環境分野に生かせる方法をも編み出す可能性がある、と。

微生物に向き合ってきた教授は農学博士。だが、追究してきたバイテクが工業的に利用できるという期待感を持っていたという。「私のやっていることは以前なら農芸化学に属するのだろうけれども、その成果を社会に還元するということでは農学と工学とに違和感はありませんでした」と、はっきりしている。教育の観点から学生と伴に研究に取り組むとき「一緒に仕事をしているんだという感覚を大切にしたい」と思う教授。「70点でいい」。その先は学生一人ひとりが見つけていくべきことなのだから。

※平成21年度鳥取大学案内に『スーパーティーチャー』として掲載