鳥取大学工学部 鳥取大学大学院工学研究科/工学専攻 Faculty and Graduate School / Department of Engineering Tottori University

  • A
  • A

化学バイオコース 准教授 辻 悦司

辻 悦司

化学バイオ系学科/化学バイオコース 准教授

TSUJI ETSUSHI

辻 悦司

1982年、大阪府豊中市出身。

博士(理学)。大阪府立北野高等学校卒。大阪大学基礎工学部化学応用科学科卒、同大学大学院基礎工学研究科博士前期・後期課程物質創成専攻修了。2011年、北海道大学大学院工学研究院物質化学部門機能材料化学分野助教。15年、鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻講師に就任。18年より現職。

子どもの頃から絵を描くのが得意で、論文誌の表紙に採用されたときは、気分転換も兼ねて“Cover Picture”(表紙絵)を自ら制作する。

水がない乾燥地で水素をつくる。
触媒の力で挑むクリーンエネルギーの未来。

乾燥地研究からの要望に、専門に囚われない柔軟な発想で応える。

「乾燥地で水素をつくる研究ができないか」。2022年冬のある日、辻悦司准教授のもとに国際乾燥地研究教育機構の研究者からこんな相談があった。思いがけないオーダーに、好奇心がむくむくと膨み始めた。

辻准教授の専門は、物質の化学反応を促進する触媒、中でも電子のやりとりを伴う電極触媒。水を電気分解して水素をつくったり、温暖化の原因物質である二酸化炭素を化学原料へと変換したりする触媒開発を目指して日々研究を行っている。つまり持ちかけられたのは、触媒の力をうまく活用して、乾燥地で水素製造ができないかということ。水電解のための触媒は日々開発しているが、それらを使うだけでよいのか。同機構は世界をリードするような乾燥地研究を、農業生産、環境修復、保健医学などあらゆる角度から行っているだけに、単にこれまでの技術を使うだけでは納得してもらえないと考えた准教授。「せっかく乾燥地でやるなら、サイエンス的にも面白くて、特色があって、実用的にも価値のあることをやりたい」。

そこで思いついたのが、大気中に含まれる水蒸気を取り出し、それを電気分解して水素を生成しようという驚きのアイデア。一体そんなことが可能なのだろうか。しかも、“乾燥している砂漠の地で”だ。

電解質で水蒸気を吸収、自作セルでの水素生成に成功。

今、世界中の多くの国々が協力し合って、2050年のカーボンニュートラル※実現に動いている。そんな時代背景の中で、利用時に二酸化炭素を排出しないクリーンかつ再生可能な物質であり、化石燃料に代わるものとして水素が注目されている。ところが、世に出回っている99%以上の水素は天然ガスなどからつくられており、生成過程で二酸化炭素が排出されているのが現状である。

その問題を解決するのが、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解し水素を製造する方法。年間を通じて雨がほとんど降らない砂漠なら、太陽光発電の場所に打ってつけ。安定的な電力供給で水電解が可能という見立てだ。でも、生活用水にすら困っている砂漠でどうやって水を確保するのか。着目したのが空気中の水蒸気。「砂漠でも湿度は意外に高く、海岸に近い砂漠では70~80%に上がる所もある」と准教授。液体の水がなくても、吸水性の高い過塩素酸ナトリウムを用いて空気中に含まれる水蒸気を吸収・液化することで、直接水電解する水素生成システムを考案した。しかも実際に電解セルを作り、室温・相対湿度85%の空気で水電解することにも成功している。

今後、有機化学の研究者とも連携してさらに吸水性の高い電解質を開発し、30%くらいの低湿度でも直接空気電解ができる技術を目指す。「乾燥地でも日本でも、これさえ置いておけば水素がつくれる。それができたら面白いですよね」と、胸を躍らせながら挑戦を続けている。

※カーボンニュートラル = 地球温暖化を防ぐため、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出する量と、森林などが吸収する量を同じにすることで「実質ゼロ」にするという考え方。

※令和8年9月掲載